宝石物語 日常のストーリー

夢に導かれた財宝

 

広島市に住む、岡本香奈という成人して間もない女性が、実家の酒屋を手伝っていました。

 

その実家は、長年酒屋を営んでいるのですが、周囲にライバル店がたくさん出来たので商売はうまくいっていません。

 

香奈も朝から晩まで一生懸命働いているのですが、なかなか家業が好転することはありませんでした。

 

「常盤橋に行きなさい。お金持ちになれるから」

 

ある夜、香奈は夢の中で、その言葉を聞いたのです。

 

翌朝、まだ寝ぼけながら昨日の夢を思い返してみました。

 

まったく、いつもお金のことで苦労している両親を見ているから、こんな夢を見るのかしら。

 

香奈は、ひとりで笑いながら顔を洗い始めます。

 

ところが、次の夜も同じ夢を見ることになるのです。

 

「これは、ひょっとしたら」

 

香奈は思い切って、夢を確かめてみることにします。

 

常盤橋

常盤橋といったら、京橋川に架かるあの橋のことだろうと思って朝早く向かいます。

 

そして、香奈は、橋を行ったり来たりしながら、どういうふうにお金持ちになれるのだろうかと思いを巡らします。

 

誰かが金塊でも落として自分が拾うのかな?

 

それとも、お金持ちの紳士にでも見初められるのかな?

 

と、ありきたりのことしか頭には浮かんでこないのです。

 

そして、時間ばかりが過ぎていき、日が暮れてきても何の変化もありませんでした。

 

香奈は、翌日も常盤橋に行ってみることにしたのですが、やはり昨日と同じで、その日も何も得られるものはありませんでした。

 

その日の夕暮れになって、どうしたらよいか思案してみます。

 

「そういえば、同じ夢を3日続けて見たんだから、もう一日だけ居てみよう」

 

香奈は決断しますが、3日目も何事もなく、時間ばかりが過ぎていきました。

 

夢の続き

さすがに疲れた香奈は、しょんぼりして帰ろうかと歩き始めた、そのときに、

 

「カナという女性を知らないかい?」

 

と、白髪交じりの男性が声をかけてきました。

 

「カナ?」

 

咄嗟に、香奈はとぼけました。

 

疲れもあって頭の考えがまとまらず、言葉がうまく出なかったこともありますが、なぜ、この男性が私の名前を知っていて、この橋に来たのか確かめたい思いが頭を巡り始めます。

 

その男性は、自分は刑事だと名乗ります。

 

「署に拘留している窃盗犯からの情報で、その男の話では、常盤橋にカナという女性が来る、そして、そのカナという女性の家には大きな銀杏の木あり、その後のほうに灯篭があって、その下を掘ると大きな壷に入った財宝が埋まっているというんだよ。
何度も同じ事を言うものだから一応確認に来たんです」

 

「そうですか、カナという女性が早く見つかるといいですね」

 

と、香奈は感情の入っていない抜け殻のような返事をします。

 

香奈にとっては、警察とか、その犯人が私の名前を知っているとか、何がどうなっているのか分からず、それにとても怖くなってきたので、その場を早く逃げ出したい気持ちでいっぱいになってしまったのです。

 

家に帰った香奈は、酒屋の手伝いを休んでいたこともあって、両親にこの3日間のことを話しても理解してもらえるとは思えず、その日は自分の部屋に入ったきり出てきませんでした。

 

確かめるために

翌日になって、香奈は気持ちも平静に戻ってきたので、何気なく母に尋ねてみました。

 

「ねえ、ここに大きな銀杏の木なんてないでしょ?」

 

「ないわね、見てのとおり庭なんて狭いし銀杏の木なんてないわよ」

 

と、母は答えて、続けて

 

「実家にならあるけれど」

 

香奈は驚いて、

 

「実家って、どこの?」

 

「おとうさんの実家よ、亡くなったあなたのおじいちゃんの家よ、今は誰も住んでいないけれど」

 

母は、それがどうかしたのかしら、というような顔で香奈のほうを見ています。

 

「ここから、遠くないでしょ、確か」

 

香奈は行く決心をしています。

 

「自動車で1時間以上かかるけど、同じ広島県だから」

 

母は、ちょっと怪訝そうに香奈を見ています。

 

香奈は母親には黙って、亡くなったおじいちゃんの家に向かうことにしました。

 

土曜日なので、家で寝ていた弟といっしょに。

 

「姉ちゃん、車でどこ行くの?」

 

弟は眠たそうに聞きます。

 

「ちょっと、協力してよ、いつもお小遣いあげてるでしょ、うまく行ったらたくさんあげるから」

 

香奈はお金で釣りながら必死に協力をさせようとします。

 

「あなたは、ただ土を掘り起こしてくれればいいんだから」

 

財宝を発見

記憶を辿りながら、何とか古びたおじいちゃんの家を見つけます。

 

そして、荒れ果てた家の庭の横に大きな銀杏の木があって、斜め後ろのほうに小さな灯篭を見つけ、その下を掘ってみると大きな壷が現れました。

 

面白い話集

壷を覆っている土をどけて紐を解いて開けてみると、中から純金の板に、金やプラチナの指輪がぎっしりと入っていたのです。

 

後で父親から聞いたところ、戦時中におじいちゃんが財宝を隠すために埋めたのだろうこと、その財宝は、おじいちゃんが若い時に、財閥系のお屋敷に出入りしていて、そこの主人に気に入られ事業もうまくいき、趣味であった宝石の収集をしていて、当時はアールヌーボーアールデコの流行のときでもあり、東京に出かけては宝石ジュエリーなどを買い集めていたのだろうことなどが分かってきたのです。

 

しかし、それを探し当てた経緯を、香奈は何度も家族に説明するのですが、両親が納得するような話しをすることはできませんでした。

 

もしかしたら、おじいちゃんは、うまくいっていない商売や家族のことを思って、隠していた財宝を香奈に見つけてもらおうと夢で話し、そして、あの橋で会った刑事さんは、隠している場所を香奈に伝えるために来たのではないだろうか、おじいちゃんの使者として。

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