宝石物語 日常のストーリー


人間の体がダイヤモンドを作った!?

 

胆石と尿石とか、体内で石ができることは知られています。

 

しかし、「ダイヤモンドが出来てた!?」

 

原田志明は、思わず叫んでいました。

 

それは、嬉しい悲鳴でもあったのです。

 

看護婦さんからダイヤモンドが見つかったと告げられたからではありません。

 

妻の百合さんは卵巣がんではなかったからでした。

 

普段は亭主関白な原田さんですが、妻にがんの疑いがかかると、しょんぼりしていることが多くなっていたので、なおさら嬉しさの反動が激しかったのです。

 

宣告を受けて

1982年の秋、福岡県福岡市内の病院で、原田さんの妻である百合さんは80歳の高齢で卵巣がんの手術を受けていました。

 

「お年ですので、体力やがんの性質によっては、助からないかもしれません」

 

執刀医は事前に夫の原田さんに申し伝えました。

 

原田さんは覚悟を決めて手術を見守っていたのですが、摘出されたのは腫瘍ではなく直径3.2mmのダイヤモンドだったのです。

 

執刀医にしては、まさかの事が起こったわけで、医師の立場からの推理を始めました。

 

仮説

妻の百合さんは52年前に娘を帝王切開で出産していますので、人為的に卵巣に何らかの影響を与えることができるのは、その時しかないであろうと仮説を立てます。

 

「娘さんのお産のときに産婆さんか看護婦さんが指輪をしていて、帝王切開の最中にその指輪からポロッとダイヤモンドだけが外れて卵巣に入ってしまったのではないでしょうか、とすれば、あり得るの話しなのではと思うのです。

 

但し、半世紀以上前の出来事ですので、今となっては確認のしようもないのと、ダイヤの指輪をしてお産に立ち会う看護婦さんがいるのかとも思いますが、何せ戦前の時代のことですので真相を突き止めるのは難しいかと思います」

 

という執刀医の見解でした。

 

「若しくは、卵子を作るはずの卵巣が、何を間違ったのかダイヤモンドを作ってしまった、でもブリリアンカットまでしてあるので、ちょっとムリがあるようです」

 

と、執刀医は、雰囲気を和ませようと付け加えようと思いましたが、その言葉は飲み込みました。

 

ちなみに、大きさから推測すると0.2〜0.3カラットで、当時の結婚指輪にちょうどいいダイヤモンドということになります。

 

とにかく、原田夫妻にとっては、幸いな出来事になりました。

 

「ダイヤモンドはネックレスにして、奥さんにプレゼントしたらどうですか」

 

医師は、このあり得ない出来事にも素敵な結末を提案したのです。

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