あかちゃんのミルク
バスの中であかちゃんがグズッて泣きそうになっています。
バスにはたくさんのひとが乗っているので、椅子に座っている母親は、おとなしくさせるために足もとのバッグから哺乳瓶を取り出してミルクを飲ませようとします。
ところが、哺乳瓶を口まで持っていっても、あかちゃんはむずがって素直に飲んでくれません。
母親は何とか飲ませようとして、
「どうぞ飲んでねぇ、どちたのかなぁ、おいしいよぉ、はーい」
と、語りかけながら、あかちゃんの気を引こうと一生懸命です。
何とか飲ませようと哺乳瓶を口に向け直していると、あかちゃんの手が無意識に母親がしているブレスレットを掴みました。
「あらぁ、パパからもらった大事なブレスレットが切れちゃうよー、離してねぇー、さあミルクを飲んでー、飲まないと前にいるおじちゃんにあげちゃうよー」
と哺乳瓶を見せながら前の席のひとに渡すふりをして、
「ミルクはおいしいよ、どうするー」
と言っていると、あかちゃんも気になり始めて目で哺乳瓶を追いかけ始めました。
「どうするのぉ、前の人にあげちゃおうかなぁ、いるー?」
と、飲みそうで飲まないあかちゃんに体をゆりかごのように揺らしながら、
「ミルク美味しいよぉ、飲むかなぁ?どうするのぉー」
と、言っていると前に座っているおじさんが、
「悪いが、早く決めてくれないかな、次で降りなくちゃいけないんだ」