医者の指示
由美子は掛かりつけの病院に向かっています。
2週間前に来てから、由美子の体調は思わしくなく顔色も冴えません。
それでも少しでも気分を明るくしようと思い、アンティーク好きの由美子らしい指輪をしています。
そして、バス停を降りて2分ほど歩くと、白を基調とした真新しい病院の建物が見えてきました。
由美子は、扉を開けて診察券を小さな透明のプラスティックの箱の中に入れると、空いている席によろめく様に座り込みます。
備え付けの雑誌を読む気にもなれず、伏し目がちになって、ちょうど前を通り過ぎるひとの足だけを眺める角度になっています。
「菅谷由美子さん、お入りください」
と、受付から聞こえたので、由美子はゆっくりと診察室に歩き出します。
「お座りください」
「はい」
「いかがですか」
「先生、あれからずっと具合が悪いんです」
「そうですか、あれっ、この前より表情が良くありませんね」
「やはり、そう見えますか」
「毎日、たばこは3本と言ったと思いますが、守っていたのですか?」
「もちろん守りました、でも、私はたばこを吸ったことがなかったので、毎日3本はとても苦しかったんです」