獣医からの電話
直哉はひとりでテレビを見ています。
ちょうど直哉の好きなスポーツ番組の放送をしているので、ソファの前のテーブルにあるリモコンを取りながらボリュームを上げました。
そのテーブルの上には、お洒落を欠かさない直哉らしくブラックダイヤモンドのブレスレットが置いてあって、セイム皮で優しく拭きながら手入れをしています。
普段は仕事帰りに、週に2回はスポーツジムに通って体を鍛えているので、ブラックダイヤの輝くブレスレットは精悍な直哉の腕にはとてもよく似合い、テレビでは、アメリカンフットボウルの全米チャンピオンを決めるスーパーボウルが行われていて、直哉はジッと見つめるように集中しています。
スポーツ万能の直哉にとってアメフト経験もあるので思い入れが強く、さらに試合は後半に逆転するスリリングな展開で、まさにスポーツの醍醐味を堪能できる試合です。
そこへ、電話が鳴ったので直哉が受話器を取ると、
「もしもし、お宅の奥さんが猫を連れてきて、安楽死をしてほしいと言っているのですが」
「そうですか、私は何度も止めたのですが、私の言う事を聞きませんでした、しかたありません」
「よろしいのですね」
「ええ、あっ、それと猫はそのまま放していただいても、帰ってきますので大丈夫ですから・・」