宝石物語 日常のストーリー

幸せを呼ぶ虹・不思議な巡り合わせ

 

近畿地方の小さな町に生まれた藤田仁美は、父親から日常的に暴力を振るわれても、母親は見てみ見ぬふりという悲惨な幼児期を過ごしました。

 

あまりのひどさに地域の福祉をしている民生委員が仁美を両親から引き離したほどです。

 

そのまま、5歳の仁美は里子に出されて、さまざまな養父母のもとを転々とすることになります。

 

仁美にとっては、どの家も居心地はあまり良くなく、また、どの養父母のところでも、楽しい思い出はありませんでしたが、7歳のときの養父母だけは違いました。

 

「大谷正男さんと由美子さん夫妻は、今頃どうしているのかしら」

 

仁美は、7歳で預けられたときの養父母であった、大谷夫妻のことをたびたび思い出すようになっていたのです。

 

大人になって

現在の藤田仁美は、もうすぐ30歳を迎えて、地域の警察官として責任を持って仕事をしていたのですが、まだ結婚はしていませんでした。

 

それは仁美が、過去に実父母や養父母たちの顔色ばかりを気にして育っていった、いわゆるアダルトチルドレンだった影響からです。

 

それらの心の傷が、大人になっても影響していて、仁美は家庭というものに恐怖心があるのです。

 

但し、7歳のときの養父母であった、大谷夫妻のことを思い出すときだけは、思わず微笑んでしまうのです。

 

それは、彼らだけは仁美の心に届く愛情を与えてくれていたからでしょう。

 

しかし、あるとき、児童相談所の担当者が仁美を大谷夫妻から引き離して、別の養父母に預けてしまいました。

 

そのような、孤独や悲しいときがあると、仁美はいつも養母の由美子さんがよく口ずさんでいた言葉を思い出すのです。

 

「曇り空も雨降りもあるけれど辛抱しよう。その後には美しい虹が待っているから」。

 

仁美は、由美子さんが言っていたこの言葉が、最近ふと思い出されて、なぜか何度も頭に浮かんできていたのです。

 

同じ頃、彼女の周りでは”虹”が現れるようになります。

 

なんとなく、めくったカレンダーに虹が描かれてあったり。

 

家に帰る途中で雑誌を買って、家で何気なく見ていると、とても綺麗で珍しい”虹色のガーネット”が新たに採掘されたという特集記事があったり。

 

さらに、一時停止違反をしたワゴン車に違反切符を切ろうとしたら、そのワゴン車に虹の絵がペイントされてあったり。

 

どういうわけか、虹を見る機会が多くなるのです。

 

「いいわ、次からは気をつけなさい」。

 

仁美はワゴン車のドライバーに情けをかけてあげました。

 

なぜ、虹ばかり見るのだろう、いくら考えても明確な理由はわかりません。

 

そうこうしているうちに、またしても「レインボー・ショッピングセンター」という看板を眼にします。

 

だが、仁美の淡い考えは瞬時に消え失せます。

 

白煙と火災

そのレインボー・ショピングセンターはオープンして間もなく、たくさんの大きな店舗が並んでいるのですが、午前中のためか人もまばらです。

 

そして、看板付近の駐車場は広く、一番端のほうで乗用車の車内に白煙が立ち込めていて、窓ガラスの隙間からも白煙が漏れ出ていました。

 

近寄って車内を見ると、老人らしきひとが横になっています。

 

仁美は、すぐに乗用車の窓ガラスを割って老人を助け出し、エンジンを止めて適切な処置を施します。

 

その乗用車は、駐車中もエンジンをかけていて、あいにくの強風で飛ばされた段ボール紙が、加熱した排気管に張り付いて排気口を塞いだために不完全燃焼を起こして室内に排気が入り込んで、さらに、熱で段ボールにも引火して小火も発生させていたのです。

 

乗用車の持ち主は老夫婦で、彼らは乗用車で小旅行をしていました。

 

夫は運転の疲れで仮眠をとっていて、妻はレインボー・ショッピングセンターで買い物をしていたのです。

 

その妻が戻ってきたときには、夫は仁美に助け出されたところでした。

 

「まあまあ、本当にありがとうございます」。

 

夫人は仁美に心からお礼を言いました。

 

老人は煙を吸っていたので、仁美は老人を救急車で病院まで運ぶ手配をとることにします。

 

奇跡の巡り合わせ

翌日、仁美は老人の様子を伺いに病院に顔を出します。

 

「もうすっかりいいんですよ。」

 

にこにこして夫人が答えて、口癖なのか、「曇り空も雨降りもあるけれど辛抱しよう」と、独り言のようにつぶやいたのです。

 

「その後には美しい虹が待っているから」、仁美はとっさに続けて口ずさみます。

 

「もしかしたら、仁美ちゃんなの?」、夫人は伺うように尋ねます。

 

「大谷さん?、そして、あなたはお義父さんだったのね」、と仁美。

 

仁美にとって、唯一幸福だった頃の時間に舞い戻った瞬間でした。

 

「あなた、この婦警さんは、やっぱり私たちの仁美ちゃんだったのよ」

 

なんという巡り合わせだろう。

 

仁美と養父母は抱き合って喜び合ったのです。

 

ようやく仁美に両親ができた、もうアダルトチルドレンには別れを告げよう。

 

なぜか、頻繁に現れた”虹”は、仁美にとって幸福への道しるべだったのかもしれません。

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