杖をついたおばあさん
「次の電車に乗るわよ」
「わかったー」
電車が到着してたくさんのひとが降りたので席が空いています。
「そこに座ろうか」
「うん」
「あー、やっとゆっくり座ることができたわ」
ママはデパートでネックレスを買ったのですが、いろいろなお店を見て回ったので足が棒のようになっています。
「ママ、これからどこに行くんだっけ?」
「おじいちゃんのところに行くのよ。
それで、用事を済ませたら帰るからね」
「わかった、ご飯はどこで食べるの?」
「おじいちゃんのところで食べようね、おじいちゃんも楽しみにしてるから」
「わかったー」
「ご飯は何がいいかな」
「僕は何でもいいよ、おじいちゃんと同じがいい」
「わかったわ、おじいちゃんに聞いてみようね」
そして、電車が駅に到着するたびに、たくさんのひとが入ってくるようになって混雑してきました。
その中には杖をついたおばあさんがいて、ゆっくりと歩きながらちょうどふたりの前に立ったのです。
子供は席を譲ったほうがいいと思ってママのほうを見たのですが、ママは眼をつぶってしまいました。
やがて、ふたりの降りる駅になったので立ち上がって歩き始めます。
そして、駅の階段を上りながら子供が、
「ママ、さっきは何で目をつぶっていたの?」
と、ママに尋ねます。
「だって、目の前に杖をついたおばあさんが立っていたでしょう。
その姿がかわいそうで見ていられなかったの・・」